株価が変動する姿にのみ意識を集中させよ。変動の理由に気をとられるな。
年6兆円の日銀のETF購入は予想以上に強烈なインパクト
今回の日銀追加緩和は日本株にとってそれほど悪くないでも書きましたが、16年7月29日の日銀金融政策決定会合で発表された金融緩和は当初、市場は「やや失望」で反応し、また米GDP減速を機に円高となったことで、発表後の日経平均は下落しました。
前場下げる形の続いた8月2日(火)、3日(水)に、日銀ETF買い入れ倍増(従来の年3.3兆円を6兆円に)があるのか注意深く見ていましたが、全く相場にインパクトなく、後場一段と下げて終わりました。後で確認したところ、これらの日はいずれも一日あたり347億円のETF買い入れに終わり(それでも充分大きな額ですが)、従来通りの金額だったのでした。
続いて前引け間際に大きくマイナスとなった4日(木)後場、今度は明らかに異変が見られました。この日、初めて日銀は、従来の倍増となる一日あたり707億円のETF買い入れを実施したのでした。実際にはETF銘柄を購入するのでなく、日経平均型、TOPIX型、JPX400型などのETFに組み込まれている個別株を買付け、あとでそれらをパッケージにしてETFと交換します。つまり、主力株を「直接」日銀が買うのです(名義上は代行する信託会社)。
特に4日は太陽誘電、ミツミ、日曹達、三菱倉庫、東邦亜鉛、住友不動産、三菱マテリアル、オークマ、日清紡などの、日銀ETF買い入れインパクトの強い銘柄がそれぞれ+4~7%もの大幅高となりました。そして前場に▼160円ほど下げた日経平均は後場猛反発し、+171円高と大反発して終えました。ただ週間の日経平均は前半の下落が響き、▼315円安の16,254円として2週続落です。
これらの値動きを見ても、日銀のETF買い入れは短期的にはインパクト充分であり、株価は上がる方向に動くでしょう。正確には上がると限りませんが、相場が下がる場合でも大きな下支えとなります。いずれにせよまともな株価より割高に行く訳です(すでに14年末から行ってきた3兆円の買い入れも若干割高にしたと思いますが、6兆円のインパクトは大きいと思います)。
実際に年6兆円のETF買いがどれほどインパクトがあるか色々試算してみましたが、過去の外国人投資家買い越し額と日経平均へのインパクトから、恐らく月に400円ほど、年間では打ち消し合う月もあって、およそ2,000円近い下支え効果があるのではないかと思います。仮にこのあと増額し、年10~15兆円も買い越せば株価は4~5千円も上がる効果があります。8月4日の相場も707億円が出ていなければ、恐らく1万6千円を割って終わっていたでしょう。それほど6兆円の純買い越しは強烈です。
外国人投資家は売り越す月もありますが、日銀は買いオンリーですので、毎月コンスタントに5千億円の買い越しが続きます。少し前までGPIF(年金ファンド)が買うから上がる相場がありましたが、これからは「日銀が買うから上がる相場」になります。アベノミクスの本質は官製相場であり、将来の歪みを作りながら値を吊り上げて行きます(ただ、長期的には歪みで上がる分、日銀がETF購入のやめ時や処理の方法を誤ると、最後は猛烈な下落となる可能性があるわけでもありますが)。
2016年上半期に外国人投資家は▼5兆円の売越と過去最高に売ってきました。年間で外国人が売越したのは、2008年(▼3.7兆円)、2000年、1998年、1990年と、いずれもバブル崩壊やアジア金融危機のあった年でした。1990年以降残り全ての年は買い越しでした。一方、1-6月の買越首位は年金を背景とする「信託銀行」の+2.9兆円で、3位が日銀の+1.65兆円でした。下半期は日銀のETF購入が倍増となるので、今後中央銀行が最大の買い手として躍り出ます。年金と日銀で外国人の売りを吸収し、円高で企業収益が下がる中でも相場を支える構図です。恐らくこうした官製需給がなければ今頃1万4千円台になっていたのではないかと思います。円高で株価が下がるのは当然ですが(EPS減少の為)、今後は日銀買い入れによってそれが表にでにくくなります。これまで日銀は累計9兆円のETFを購入してきました。全国内・株式型ETF純資産額の6割に相当する額です。
◆日銀が買う事を意識した銘柄選択を心がけて行く必要
ETF倍増計画の始まった4日以降、市場では大型株指数優勢となっています。TOPIXよりも買い入れインパクトが偏る日経平均の方がよく上がり、反対に東証2部やマザーズ指数は寂しい相場でした。日銀の買い入れは日経平均を中心とする指数連動型ETFに限られるため、二部市場とマザーズ銘柄へは一切向かわないのです。そして株価下支え期待から証券株が良く騰がっています。この状況を見ると、おかしな発想ではありますが、日銀が買う事を意識した銘柄選択を心がけて行った方が良いでしょう。本来、株は企業収益と景気を意識して銘柄選択して行くものですが、今後は「需給」、つまりどこが吊り上げられるかを最重要視して行く必要があります。
参考:日本株通信
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