建築は、3つの行為から成り立っています。
それは、設計、施工、監理の3つです。「設計」とは設計図書(設計図面および仕様書)を作成すること、「施工」とは建設工事を行うこと、「監理」とは工事と設計図書を照合し、工事が設計図書のとおりに実施されているか否かを確認することをいいます。
設計と監理は、建築士(国家資格を有する専門家)が行わなければならないことになっています。この設計、施工、監理は、国家権力を立法、行政、司法に分けて互いにチェックアンドバランスの機能を働かせる三権分立の制度とよく似ています。設計、施工、監理は、互いに協力し、かつ、けん制し合って、この3つの行為のバランスがとれ、適正なチェック機能が果たされるようにすることが建築工事を成功させるポイントであることはいうまでもありません。その理想的なかたちは、設計者、施工者、監理者について互いに利害関係のないように選定することです。
一般の住宅のような小規模建築では、設計と監理は同じ人のほうがかえってスムーズにいくので、1人の建築士に設計と監理を依頼するのが一般的です。設計と監理を施工から分離して、施工者とは一線を画した専門家に依頼する方式です。しかし、わが国では施主(建築主)は施工と設計・監理を分離せず、すべて一括して施工者に依頼し、すべてを依頼された施工者は、設計と監理を知り合いの建築士に外注したり、あるいは施工者自身が自ら開設した設計事務所に行わせるという形態が多くとられています。このような発注形態は「設計施工」などと呼ばれています。わが国では、古くから優れたとうりょうがいて,棟梁に建築すべてを任せて建築してきたという伝統から「設計施工一貫」が多いといわれています。監理者は、施工者の施工を厳しく監視する役割を担っており、ときには施工者と厳しい対立関係が生ずる立場にあります。このことを考えると、「設計施工一貫」は、施工者と設計・監理者との間に利害関係が生じやすく、また契約関係から従属的な力関係になりやすいため、適正な監理がないがしろにされる危険性があります。建築は専門性が高く、素人である私たち消費者が自ら建築の適正をチェックすることはほとんど不可能といってよいでしょう。そうだとすると、消費者の立場に立って適正に工事を監理してくれる監理者が存在することは大変重要なことといえます。
上記は、河合 敏男 弁護士(第二東京弁護士会所属)のweb記事より抜粋して転記しました。